プロが考える実践の溶剤管理

クリーニングのプロが考える実践の溶剤管理について再検証してみようと思います。
私は変に凝り性で"洗い上がりの良さ"にこだわってきました。ドライにおける最大の要因は溶剤の良さに有るのは当初から分かっていました。オゾンも永久磁石、電気等の磁気による活性化にも挑戦しましたが、やはり酸化値を下げる大切さが分かりました。それ故に特に気になる酸化値を下げることが出来るのは2つしかないと分かったのです。蒸留と脱酸剤(活性アルミナ)による除去を徹底的に工夫しました。ようやくある程度簡単に管理が出来る方法を今回見つけました。

蒸留

蒸留をすれば酸化値は下がりますが、残念なことに完全に除去できません。脂肪酸の沸点が石油系溶剤の沸点より少し低いため気化した脂肪酸は戻ってしまいます。
ただ、洗浄ごとに全量蒸留することに異議を持っています。大切なのはベースタンクの溶剤がベストの状態である事が大切です。蒸留液には水が混じり、それが溶剤となじむには時間が掛かります。ドライクリーニングには水分が欠かせません。但し、水分量が多すぎると衣類に影響を及ぼします。その為、蒸留は必要最低限で。これがプロの溶剤管理です。 ゾールは75度くらいから135度くらいで蒸留するといわれています。 135度でも蒸発しない物質が有ると言われている事は、ゾールの組成に変化をきたしているのです。
蒸留はその上ソープが無くなります。
何より問題なのは、蒸留された溶剤には当然沸点100度の水が入っています。比重分離器、水分離器では取りきれませんし,ましてタオルなどでは限界があります。それを直接ベースタンクにパチンコ玉状態で戻しているのです。比重の重い水はソープとなじむ前に貯まっているスラッジに入り込む事が考えられます。
以上2点は心得ておくことだと思います。

脱酸剤(活性アルミナ)

アルミナを活性化した物です。これの穴(粒状炭より大きな径をしているため取り込みやすい)に脂肪酸を吸着され酸化値を下げると言われます。現状使用しているフィルターには10%強の割合で混ぜられています。
※現状安価なフィルターには脱酸剤が含まれていないことが往々にしてあります。
問題は能力が使用頻度により落ちて行く事なのです。交換当初と400から500ワッシャーでは酸化値が0.6位まで行くと言われています。
以上から蒸留には回数の最低を考えねばならず、カートリッジには能力劣化の補完を考えるのは当然のことと言わざるをえません。この事をクリアーしたのがXクリーンとXプラスです。

  1. 酸化値
  2. ソープ濃度
  3. 水分量
  4. 透過度
  5. 臭い
  6. 温度
1.酸化値

この数値のあり方は洗浄力に影響するところが多大にあります。その為、極力抑えることが必要となります。
脂肪酸は粘着性を有し、他の物質も吸着したうえでエレメント(濾紙)にかなりの量が付着し、次第に循環される溶剤量が低下する為、すすぎが不十分になり再汚染のひとつの原因となります。
また、酸化値が上がると乾燥では取れにくい臭いが残ります。この臭いを溶剤のせいにしてN-10のように臭いが少ない溶剤を採用することは考え方の根底から間違っています。

元々ドライ臭は脂肪酸の臭いであり、ドライをするとドライゾールの臭いが残るというのは間違っており、本来臭いがしないことが当然です。

※蒸留時の溶剤沸点の少し下に臭いの成分の沸点があります。これを<蒸留臭>と言いますが、取るにはカーボンを少し使用すれば簡単に取れます。この蒸留臭を取るために販売された薬品がありますが高額でフィルターにカルシウムの幕を作ることがあるので注意が必要で、弊社としては使用すべきでは無いと考えます。

※ベースタンクにはスラッジが溜まりやすく、その中に水が入り込みヘドロ状態になり臭いが発生することが多々ありますのでこれにも気を付けなければなりません。

つまり、溶剤管理さえ良く出来ていれば、本来、衣類には複雑な臭いはしません。
また当然、乾燥時間は短くなります。お客様が洗ったのにドライ臭がしないから洗ったのか?と疑問を持たれることは業界の情けない現状を表していると思います。

酸化値が0.5以上でフィルターを交換した場合、フィルターからベースタンクに落ちる溶剤の状態は非常に悪く、新液を補充したとしても0.1以下に下げるのは困難になり0.2~0.3からの酸化値スタートとなります。その為、交換直後のフィルターに大きなダメージを与えることとなり悪循環の始まりとなります。

※蒸留器では脂肪酸や酸化臭は完全に除去できません。脂肪酸の沸点が石油系溶剤の沸点より少し低い為、気化した脂肪酸は戻ってしまいます。

酸化値変動推移(イメージ)

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2.ソープ濃度

メーカーにより使用濃度が違いますが0.4から0.7での使用が理想です。フィルター交換時と同じ量を投入し続けると徐々にフィルター吸着が落ちてくるため、濃度が高くなる事は忘れてはいけない事と思います。
月に2回くらい濃度を計測してもらえば良いのですが、この事より当初週1回位計ってもらい1カ月くらいで衣類を見ておき衣類を触り、皺を見ることで濃度が分かる位にはなるべきです。
長年の経験により、ベースタンクに手を入れてその手をこすり合わせるとおおよその濃度くらいは分かるようになっておくべきだと考えます。

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3.水分量

溶剤中の水分は抑えるに越したことはありません。但し無ければ洗浄力は落ちます。最良の方法は溶剤中の水分量を落とし、汚れているところに水気を持たすことです。水ほどドライ洗浄に良いものはないと思います。
溶剤に界面活性剤が入って空気と触れている以上、湿度により水分量は変わります。使用する水の量を考慮するのは当然だと考えます。

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4.透過度

溶剤管理の一種のバロメーターと考えます。このコントロールは簡単で、薬剤や蒸留による脱酸とカーボンの脱色で対応できます。透明と透過度は違います。フィルターにカーボンの無いものは微細なゴミは取れません。ペーパーフィルターを使用されている方が多いなか、ペーパーのみでは完全にゴミは取り除けません。これを使用し、1日20ワッシャーも洗えば液が汚れる為、朝洗ったお客様は幸せだが、夕方洗われたお客様の衣類はどうなるのでしょうか。ただ、カーボンでは少ししか脂肪酸が取れない為、液は透明にはなりますが透過度はあがりません。結果、カーボンによる脱色効果及び薬剤や蒸留による脱酸効果があってこそ充分な透過度が得られます。

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5.臭い

酸化値が上がると乾燥では取れにくい臭いが残ります。これを溶剤のせいにして臭いのしない溶剤を採用するのは間違っています。溶剤の臭いは乾燥で取れますが、脂肪酸があると臭いは残ります。また、ベースタンクにはスラッジが貯まりやすく底に沈殿した水が入り腐らせます。注意すべき事と思います。
また、蒸留時の溶剤沸点の少し下に臭いの成分の沸点が有ります。蒸留臭と言われていますがカーボンで簡単に取れます。

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6.温度

余り低いと汚れは取れにくく、14度に設定してあるパーク機があまりに汚れ落ちが悪いからと20度に変えると劇的に汚れ落ちが良くなったと聞いたことがあります。
25度を超えると酸化値が上がり、色泣きが起こります。そもそも溶剤が変化するのではなく、活性が上がり(溶剤、ソープ)その為よく落ちる半面の事が起こると考えられています。
チラーを使うのが最適であるが、タワー水で弊社が対応した事もあります。4から5度の変化しかないと言われますが、立派に通用した事実が有ります。イタリア製の高級品等は染色堅牢度が悪い為、温度対応は絶対すべき業界の課題と考えます。

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